2015.02.13
東日本大震災とともに訪れた転機 – サーバーワークス代表 大石良氏(2/6)
- クラウドとの出会い
- 東日本大震災とともに訪れた転機
- クラウドはITの話ではなく人間の話
- クラウドで、世界を、もっと、はたらきやすく
- サーバーワークスの5つの行動指針
- 自ら実現しながら発信する会社
Chapter 2:東日本大震災とともに訪れた転機
- 古森
- 東日本大震災が、転機に?
- 大石
- はい。震災の直後に、日赤のウェブサイトがダウンするという出来事がありました。多くの人が日赤に期待していた矢先に、インフラ面で重要な機能がマヒしてしまったのです。そこに私たちが駆けつけ、30分程度でAWSに移行して、サイトのリカバリを成功させました。
- 古森
- それは神業のようなスピード感ですね。驚きです。
- 大石
- もちろん、ゼロから作業をしたわけではなく、トラブル発生を知ってから「これは、クラウドが役に立つはずだ」と思い、当方で自律的に準備しながら駆けつけたわけです。いずれにしましても、本当に役に立てたと思います。そうしたら、「義援金のサイトの方も構築を手伝って欲しい」という依頼を頂きました。インターネットを使って多くの人々の支援を集める必要がありました。弊社でクラウドを使って立ち上げをサポートさせて頂き、約48時間で稼働にこぎつけました。
- 古森
- 48時間!ものすごいスピード感ですね。
- 大石
- 義援金の募集は一昨年の7月に終わりましたが、最終的には約3,200億円の義援金をクラウドの仕組みを活用して集めたことになります。もちろん、弊社が直接集めたわけではありませんが、そのために不可欠のインフラを迅速に立ち上げ、運営していく形で貢献できたことを誇りに思っております。ありがたいことに、この事例がその後各方面で認知されるようになりまして、弊社の経営も大きく前に進むことが出来ました。
- 古森
- とても印象的なストーリーですが、一般的な意見を申し上げますと、それほど世間には知れ渡っていないですよね。私自身、東北被災地の復興応援のための非営利活動に継続的に従事していますが、このエピソードは聞いたことがありませんでした。お話を伺って、「そんなことが起きていたのか!」という驚きがありました。
- 大石
- もともと、日赤さんの件はボランティアでやろうと思っていましたし、宣伝するつもりもなかったのです。しかし、当の日赤の方から、「この出来事を世に伝えて、企業としてしっかりと事業を伸ばして、そしてまた義援金を寄付して下さい」と言われました。目から鱗が落ちましたね。ボランタリー精神が社会の中で持続的に機能するために何が必要なのか、日赤さんは真剣に考えておられますね。我々の方が、もっと伝えなければいけないのだと思います。
- 古森
- クラウドというと、「ITの話」という印象を持つ人が多いかもしれません。しかし、このエピソードを伺うと、そうではなくて「人間の世界へのインパクトの話」だという現実感がわいてきますね。「クラウドで何が出来るのか」を端的に伝えるお話でした。
- 大石
- おっしゃる通りで、クラウドの本質はITではなく人間の話です。これも東日本大震災で感じたことですが、震災発生直後、多くの会社はデータセンターにエンジニアを向かわせていました。その気持ちは十分にわかりますが、やはり、あの状況下で仕事に向かわねばならない環境を作ってしまうというのは、非人間的だと思うのです。多くの人が家に帰れない状態で、交通機関も麻痺しているような状況下で、人間としてとるべき行動の優先順位が違うのではないかと思います。コンピュータは、人間の役に立つために生み出されたのに、あのような厳しい状況下で人間がコンヒューターの奴隷になっているような場面が生み出されていました。
- 古森
- 当事者の方々は、責任感や使命感をもって動いていたのでしょうが、状況としては確かに人間として厳しいものがありますね。
- 大石
- はい、データセンターに向かうエンジニアの動きは理解できます。その時は、仕方がなかっただろうと思います。しかし、「それって、本当はおかしなことではないか」という思いがあります。弊社の場合、以前はお客様のサーバーを預かって管理する仕事をしていましたが、震災時にはほとんどAWSに切り替えていました。クラウドであれば、リモートで確認できます。弊社では、震災当日は社員をまず家に帰らせ、帰れない人は会社に泊まらせました。それから1週間はリモート勤務にしました。クラウドだからこそ、それが可能だったのです。
- 古森
- 大震災に伴う危機的な場面で、はからずも自社のビジネスモデルが「人間」にもたらす意義が見えてきたわけですね。