Key Questioner (KQ)のアプローチ – アセットケア代表 宮田丈裕氏(4/4)

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KOLEIZOSCOPEインタビューの記念すべき第一回は、株式会社アセットケア 代表取締役の宮田丈裕さん、および長年にわたり宮田さんと協働しておられる西野亜希さんにお話をうかがいました。お二人が過去10年以上にわたり関わってこられた人材アセスメントや各種人材開発プログラムの経験から見えてくる本質的な課題とは何か。また、その対応についてはどのような方法がありうるのかについて、語っていただきました。


  1. Chapter 1思考力不足という単純にして重大な課題
  2. Chapter 2思考力が鈍化してきた背景への仮説
  3. Chapter 3思考力に秀でたハイパフォーマーの共通点
  4. Chapter 4:Key Questioner (KQ)のアプローチ

Chapter 4:Key Questioner (KQ)のアプローチ

古森
さて、思考力・構想力の課題が根深いということが、日本における多くの企業に共通するチャレンジなのだとして、それに「何の手が打てるのか」を我々は考えなければなりませんね。そうしないと、それこそプロフェッショナルとしての思考力・構想力が足りないということになってしまいます。
宮田
その通りです。私どもとしましては、これまで続けて来た人材アセスメントの活動はさらに充実させていきますが、これに加えて二つの新しいプログラムを立ち上げたところです。アセスメントは、文字通り課題を可視化するサービスですが、新プログラムはいずれも思考して、構想して、新しい行動を起こしていただくお手伝いをするものです。
古森
二つのプログラム・・・。
宮田
一つは、Key Questioner(キー・クエスチョナー)と言います。略して、「KQ」です。徹底して思考力や構想力を鍛えていくプログラムです。もう一つは、FURICO(フリコ)と言いまして、こちらはより実際的にイノベーションのプロセスに寄り添ってお付き合いするタイプのプログラムです。いずれも、まったく実証されていないプログラムをこれから開発するということではなく、これまでに試みて来た様々な個別のプログラムを俯瞰して、そこから重要な要素を抽出して、体系化したものになります。
古森
たいへん興味深いですね。今後も対談記事を継続的に作成していきますので、今日はまず、「KQ」というプログラムについて概要をお聞かせ願えますか。
宮田
はい。KQは、その名の通り、Key Question(カギとなる質問)を形成する力を養成するものです。まずもって、自問自答する機会を充実させます。何らかの事実や事象に接した際に、自分に対してカギとなる質問を投げ、筋の良い思考を巡らせていくことが出来るかどうか。それが、発想のサイクルを迅速にまわすことにつながりますし、行動に移るまでの時間も短縮することになります。自問自答で鋭い質問が常に形成されるようになれば、他者との議論の場面でも同様の質問を投げることが出来るようになります。これは、組織のリーダーとしても欠かせない能力です。
古森
ガバナンスの話などをしている文脈でも、よく、社外取締役の重要な役割は ”Good question” を出せるかどうか・・・などと言いますね。業務のディテールにまで入り込まない立場の人でも、質問力が優れていれば、他者の思考回路を生産性の高い方向に回していく触媒になることが出来ます。逆に言えば、組織の核になっている人の思考力が低いと、組織全体の思考効率も上がらないということですね。
宮田
そういうことになります。ところで、実際には仕事面や生活面の修羅場を通して思考力が鍛えられていくことが多い中で、それを疑似的なプログラムで再現することは容易ではありません。かといって、自然発生的にそうした修羅場が来るのを待望するだけでは、今以上にハイパフォーマーが増えることもないでしょう。何らかの形で疑似的な環境を作り、思考力を鍛えていただく必要があると思っていました。それで編み出したのがKQです。
古森
どういう流れのプログラムなのですか。
西野
大きくは、集合型のセッション複数回と、その間をつなぐドリルの組み合わせになっています。集合型のセッションでは、初回は私たちが思考力や構想力についての課題意識や視点をお示ししつつ、KQのプログラム概念そのものをご説明します。少し、トライアル的にその場で考える訓練をしてみたりもします。
古森
その際に、そもそも考える軸のようなものは何か付与するのですか。
西野
考え方そのものを細かく規定するのは適切ではありませんが、私たちの場合は、ある事実や事象に対して「顧客」「投資家」「社員」「経営者本人」の4つの視点で考えを深めていただくようにしています。
宮田
例えば、今朝の新聞にある企業の不祥事のニュースが出ていたとしましょう。その記事を見て、あなたは何を背景として想像するのか。本当のところ、内部でどんなことが起きている可能性が高いと見るのか。「顧客」「投資家」「社員」それぞれの立場の人が、その出来事に接して感じるであろうことは何か。そして、「経営者本人」の立場であったなら、「あなたなら、どうすべきだと思うのか」を考えていただくようにします。
古森
具体的事実や事象を題材にして、複数のステイクホルダーの立場や経営者本人の立場に立って考えてみる訓練。まさに、「わがこと化力」が試されますね。最初の集合型セッションでは、そうした考え方の感覚自体をお伝えするわけですね。
宮田
そうです。そこから、一回目のドリル期間に入ります。このドリルは、単純にして非常にしつこいプログラムです。休日以外は毎日事務局、つまり私たちからメールが参加者全員に入るようになっていまして、先ほどのように何かの記事を見て考えていただくような形で、日替わりでお題が飛んで来る仕組みなのです。そして、考えたことを簡潔で結構ですので、メールに書いて事務局にお送りいただきます。これを、およそ一ヶ月のドリル期間は毎日続けていただきます。
古森
それは、かなりしつこいですね。そして、ドリル期間を経て、再度集合セッションを開催するわけですね。
西野
そうです。2回目以降の集合セッションでは、その前のドリル期間における参加者それぞれの思考事例などを共有したり、とくに色々な視点が出されたテーマについては再度皆で議論してみるなど、ドリル期間の思考蓄積を活かしたプログラムを展開します。もちろん、私たち自身も思考力を活かしながら質問を投げさせていただき、その場のファシリテーションを行います。
古森
その後、またドリルになるのですか。
西野
はい。基本的には、この「集合セッション+ドリル」を複数ラウンド繰り返していくことになります。ただし、ラウンドごとにドリルに視点を持たせるようにしています。例えば、全体で4回のドリル期間を盛り込む場合、最初のラウンドは特に「顧客視点」で考えてみる、その次は「投資家視点で考えてみる」・・・など。他にも切り口はありますが、例えばそんなイメージです。
古森
長く継続すると、かなり鍛えられそうなプログラムですが、目途としてはどれくらいの期間を想定すれば良いのですか。
宮田
基本パターンは、集合セッション5回と、その間をつなぐドリル期間4回という形になります。ドリルはそれぞれ一ヶ月ですから、合計で四か月ほどのプログラムです。最終回の集合セッションでは、それまでに鍛えた思考力をフルに活かして、自分自身の仕事面で向き合っている事実や事象を題材にして考えていただきます。色々な角度から自問自答したうえで、「実際何をすべきか」を描いていただきます。

Key Questionerの基本構成

古森
ああ、最後にそれを発表して・・・
宮田
終わり、ではありません。残念ながら。
西野
その内容について、今後は私たちから色々と質問をさせていただくのです。ちょっとご気分を害される場合もあるかもしれませんが、予定調和は最後まで許容しません。鋭い質問、厳しい質問、本質を問う質問、ご本人の本音を問う質問などを容赦なくさせていただくのです。そうすることで、さらに本当の意味での思考を深めていただくようにします。
宮田
言い換えれば、「あなた、これ本当に実行するのですね?」ということを、あの手この手で磨きこんで行って、実行の歩留まりを上げていただくお手伝いをするということです。
古森
いや、これは相当にしつこいですね。しかし、日常の継続と集中的経験がセットになっていますから、実事業や実生活における修羅場体験ほどのインパクトはなかったとしても、それなりに現実感のある形でしみこむものがありそうです。実は、私も2000年に経営コンサルタントになって以来、ほぼ毎朝、新聞の見出しだけを読んで記事内容を想像するという訓練を続けていまして、やはり継続することで明らかに思考力が高まっているという実感があります。それに似ている部分もあるなぁ、と思いました。今後の展開に期待しています!
宮田
ありがとうございます。実施期間の設定や、ドリルに使う素材、問うていくテーマなどについては、企業ごとのニーズにあわせてカスタマイズも可能です。ぜひ、多くの企業様に活用していただきたいと思います。
古森
宮田さん、西野さん、ありがとうございました。次回は是非、イノベーションを起こすお手伝い、「FURICO」のこともお聞かせください。

[KOLEIZOSCOPEインタビュー] 第1回 株式会社アセットケア 代表取締役 宮田丈裕さん

  1. Chapter 1思考力不足という単純にして重大な課題
  2. Chapter 2思考力が鈍化してきた背景への仮説
  3. Chapter 3思考力に秀でたハイパフォーマーの共通点
  4. Chapter 4:Key Questioner (KQ)のアプローチ