遊び心って何ですか?マザー工場(久留米本社工場)のお愉しみ – ムーンスター久留米工場長 市丸和幸氏(2/5)

株式会社ムーンスター 久留米本社工場長 市丸和幸さん

  1. エースは要らない!生産性改善は意識改革から
  2. 遊び心って何ですか?マザー工場(久留米本社工場)のお愉しみ
  3. 人は本当にすごい力を持っている
  4. 人はめんどくさい生き物
  5. 生産性とニコニコの両立〜次世代へのバトン〜

Chapter 2:遊び心って何ですか?マザー工場(久留米本社工場)のお愉しみ

tvt-06_04

黒木
中国工場改革の実績を経て本社久留米のマザー工場に戻ってこられたんですね。工場長になられて生産性を2倍に上げたと伺いました。勝因は何でしょうか?
市丸
やはり一言で言えば皆の「意識」が上がったからでしょうか?
黒木
とても興味深いです。もともとマザー工場ですし、中国工場と違って、他品種少量生産も可能な熟練された職人の方が揃っているはず。「意識」高そうですが。
市丸
その通りです。そこがリソースでした。そこで、「ラインに人を合わせるのではなく、人にラインを合わせてみよう」と思ったんです。
黒木
詳しく聞かせてください。

tvt-06_10

市丸
久留米工場にはラインが大中小7つあるのですが、全て配置やコンセプト(意図)を工員の習熟度に合わせて変えています。大ラインは量産型で、習熟度が高い工員と新人を合わせています。小ラインは、別名「マイスター(熟練工)ライン」といって、1人で4工程以上を担当するため、マイスターでないと配置されず、ここを担当することが工員の目標になっています。
黒木
それが、ラインを人に合わせて作るということなんですね!素人考えの質問ですが、1人が複数工程もやると効率が下がったり、熟練の度合いを管理する方も大変なのではないでしょうか?

tvt-06_11

市丸
マイスターラインは「遊び心」です。ラインの中で毎日同じ作業の繰り返しではなくて、同じ1日でブーツからベビー靴まで自分の手で作る愉しさがある。「遊び」や「愉しさ」は生産性にとってとても重要です。管理も生産性をディスプレイに数値化するしくみを作っているので、ゲーム感覚にもなります。そしてもちろん、マイスターラインは熟練工の養成にも繋がっているんです。
黒木
いいネーミングですねえ「マイスターライン」。小ロットでも対応できるスキル養成にもなっているのですね。
市丸
ええ。任されている責任というのも感じているようです。そして意識が高まってくると、自ら工夫したり、生産設備のレイアウトをこう変更しようというアイディアが自発的に出てきたりします。それに、多くの設備を自作できるので、細かい改良は日々やっているのも大きいですね。
黒木
ひとりひとりが自分事になっているのですね。工場のお話で「遊び心」「愉しさ」というコトバの意外さにまず驚きましたが、それが生産性、ひいては利益に繋がっているということがとても興味深いです。
市丸
人は制約の中でも余地があると工夫をするものだと思います。上から「あれやれ、これやれ」というのではなく、任されている責任を感じ、「自分達が作っているんだ」「お客さんが待っているんだ」という意識さえあれば。
黒木
すごいことです。そういう文化を醸成していくことは簡単でないですよね。ちょっと変な質問ですが、よく生産部門と営業部門は仲が悪いと言われますが、いかがでしょうか?どの会社でもよくあることだと思いますが。
市丸
今回の工場改革でも、一時的に納期を遅らせてもらうなど、営業的にも協力してもらうことが必要でした。その意味で、工場の生産性改善の過程では、他の部署の理解が必須です。営業部門だけではなく、生産技術部門、生産計画部門・・・お互いの立場がありますから。協力をお願いする上で、相互理解は意識しました。他の部門の人に来てもらって製造体験してもらったり、工場がチャレンジしていることや、その目的を丁寧に説明したり。工場側もこれまで生産計画に対する意識が薄く、オーダー来たものを作るという意識でした。
黒木
そう伺うと、会社機能全体が「工程」とも言えますね。一部分改善できても駄目といいますか。
市丸
確かにそうですね。仲が悪いところがあるとしたら、まだ「余裕」があるんですきっと。経営的にも、私達喧嘩している余裕ないですから。・・そうそう、最近嬉しいことがあったんです。
黒木
是非お聴かせください。
市丸
この新商品、寒冷地仕様のブーツ「ANTARC」なんですが、わたし、出来ると思ってなかったんです。とても難しいのです。できないオーダーを受けると営業への迷惑もかけるので何度も断ろうとしたんです。しかし熟練工はなんども試作改良して努力したし、設備まで改造した。企画側も中途半端なところでは諦めなかった。結果、開発チームも驚く程のクオリティのものが出来上がったんです。
黒木
具体的にはどのようなクオリティですか?
市丸
ヴァルナカイズ製法によって、ウインターブーツとしての防水性、防寒性がありながら、スニーカーのような履き心地を実現させています。ラバーの貼り付けは相当高いレベルの熟練の技が必要なのです。企画側の期待をはるかに超えるものができました。私だけが降りることを提案し、現場は最後まで諦めなかった。もう本当に感動しました。人間て本当にすごいですね。私はいついなくなっても安心だと嬉しかったですね。

tvt-06_05

黒木
それはもう感動ですね・・。
市丸
ええ。私はもう細かい口だしはせず、終始目をかけ続けることを徹底しようと思っています。毎朝7時に来て、出社してくるひとりひとりに声をかけています。顔の様子から調子の良し悪しがわかりますし、私に話したいことがあればその場で聞くことができます。

>> 3.人は本当にすごい力を持っている